Masumi Dialogue
vol.06

地場産業の技術を活かした
新しいプロダクト

これからの時代に求められる「豊かさ」とは何なのでしょうか。さまざまな分野の方々との対話を通じて、その答えを探っていきます。今回は、山梨県市川大門の和紙メーカー「大直」の古谷愛さんが対談相手。3月にオープンしたばかりの新丸ビル内にある大直の直営店へ伺いました。

古谷さんが手がけた強度のある和紙を使ったSIWAシリーズは、国内外で人気。宮坂自身も買い替えながら使い続けるほどにポーチを愛用しています。真澄のリブランディングを後押ししてくれる存在でもあったSIWA。どんな背景から誕生し、これまで歩んできたのでしょうか。

古谷愛(ふるたに・あい)

家業である大直に勤務し20年。直営店店長や営業などを経て2008年にSIWAブランドの立ち上げ責任者となり、現在は再度D2Cを強化すべく直営店統括責任者として勤務。2021年11月に出産し、一児の母として奮闘中の日々をおくる。
https://siwa.jp/

SIWAは私にとって、お手本のようなプロダクトで、自分が愛用しているだけでなく、よくお土産にしています。以前、お酒の瓶がちょうど入るサイズの手提げ袋があり、日本酒を入れてプレゼントするのが定番でした。私が求めているのは、外観も内観もミニマルでシンプルかつ上質なもの。それに加えて日本らしさを備えたものであればなお良い。なおかつ、世界中どこにでも持っていけることが条件です。SIWAは「昔の日本」をそのまま表現しているのではなく、過去からきちんと繋がった「今の日本」を体現しているのが素晴らしいな、と。

SIWAは愛さんがブランドを立ち上げた2008年から一貫したものづくりをしていると感じます。真澄の全面的なリニューアルはまだ2019年からと日が浅いのですが、一貫した哲学を持ってものづくりをしているといった点でずっと気にかけていて、お話を聞いてみたかったのです。そもそもの話に遡ると、SIWAを手掛ける大直は、山梨で和紙をつくる伝統産業の会社で、愛さんにとっては家業ですよね。家業を継ぐつもりで育ったのですか。

古谷愛さん(以下、古谷):家業を継ぐ意識はあまりありませんでしたが小さい頃から家の仕事を間近で見ていましたので、体には何か染み付いていたようです。今では家族の他に社員さんが70人ほどで組織化されているのですが、小さい頃はまだ小規模でした。家の前の倉庫で出荷する障子紙の筒に、粉ののりを入れる手伝いをよくしていましたね。

父も母も仕事人間で、子どもの頃の旅行といえば、展示会に行くついでだったりして、仕事も兼ねていました。でも、それが子どものころは楽しかったし、両親が忙しくしているのは当たり前のような気持ちで、嫌ではなかったですね。

愛さんは、入社当時は大直の店舗で働いていて、その後SIWAの立ち上げを任されたそうですね。SIWAには大直の代表であるお父さんはどのように関わっていたのですか。

古谷:建物も別でしたし、大きな契約やよっぽどなこと以外はノータッチでしたね。父が深く関わらずに独立採算制で数字まで管理させてもらえたので、非常に勉強になりました。ブランドを0から作るということを深澤さんや取引先様などに教えていただきながら一つ一つ作り上げていきました。

SIWAはどんなきっかけからできたプロダクトなのですか。

古谷:大直の商品を海外にどう展開していくか考えていました。2000年代半ばは、日本の伝統産業を海外に売り出そうという機運が高まってきていた時期でもあって、経済産業省の「地域資源活用認定事業」の公募もあり、きっかけをつかみました。

新しい事業で我々がイメージしたのは「伝統産業である和紙と、山梨県出身の世界的なデザイナー深澤直人さんがタッグを組むこと」。国の考えるこれからの日本の産業と輸出イメージに合致したのもあり、運よく補助事業に採択され、新しい事業をスタートすることができました。

2008年にSIWAはスタートしていますが、海外への輸出という目標もありながら、ブランドのイメージとしては男女問わず、当時私は20代後半でしたが、その当時の私くらいの年代の人も使えて、ライフスタイルに根付いたものをつくることを軸にこれまでやってきました。

きらきらした特別なものじゃなく
気軽に手が伸ばせる日本らしさ

実際に世界に出してみての反応はいかがでしたか。

古谷:2009年1月に初めてフランスの展示会に出展しました。製品の評価は国によりさまざまではありましたが、輸出条件として製品が軽いので送料が安価に抑えられるのと、紙製品自体に税金があまりかからないということで輸出条件は良く、バイヤーにはその点でも喜ばれました。東日本大震災前までは、SIWA全体の売り上げの40%は海外でした。初めて参加した展示会をしたのがフランスだったこともあり、フランス、イタリア、アメリカで販売をスタートし、輸出経験を重ねた後、中国でも販売。その当時は年に4、5回は海外出張でした。

SIWAは20カ国以上で販売されているそうで、あらためて多様な国で受け入れられていることがすごいです。

古谷:海外の街の中で実際に使っている人に出会うこともありました。すごく使い込まれているのを見て嬉しくて話しかけると、相手も「めっちゃかっこいいよね。君がつくっているのか」って言って、握手(笑)。話してみると、クリエイターの方が多かったです。世界各国さまざまなファッションでSIWAの製品を使っていただいている。その様子を写真集にしたいという夢もあります。

SIWAのようにソリッドな日本の美的感覚をプロダクトで体現しているものってなかなかない。でも、世界が認めている「日本らしさ」を誰より上手く表現しているという印象です。

古谷:その当時、海外で売られている日本製品はあまりなく、高額な工芸品など「特別なもの」が多かった。でも、私たちが目指していたのは日用品。販売価格もできる限り抑える工夫もしながら輸出条件を経ても、日常使える日本の製品を目指しました。

ブランドは生き物だから
変化するのは当たり前

手を伸ばせば届く範囲にあるというのはすごく大事ですよね。日本人だって20代30代で、和紙を生活に取り入れるのは難しいかもしれない。でもSIWAなら生活に和紙のエッセンスを加えられます。

古谷:おかげさまでここ数年は、10代後半から20代の若いユーザーさんが増えています。Instagramで「私も持っているよ」とアップしてくれるのが嬉しいです。ひとつのきっかけは、2014年、雑誌『ポパイ』で掲載いただいたことが若いユーザーが増える引き金になりました。それまではプロダクトとしてのイメージだったのですが、ファッションアイテムとして見ていただけるようになりました。若い人だけでなく、男女問わず年齢層問わず客層が広くなっているのは目指しているかたちです。

14年間で客層も、見せ方も変化してきたのですね。

古谷:以前、深澤直人さんから「ブランドは生き物、どんどん変化していくものだよ。」と教えていただいたことがあります。ブランドができてすぐの頃は、展示会や売り場づくりをミリ単位で調整したり、きちきちと張り詰めてイメージを固めていくことに注力した時期がありました。ブランドのコンセプトをしっかり伝えるのに必要なことでしたが、次第に「敷居が高い」と言われたりすることもあり、こちらの思いとは裏腹に捉えられてしまうこともありました。

いろいろな経験をしながら、生き物であるブランドをユーザーさんとともに歩んでいくためには、どうあるべきかを考えながら変化させてきた感じです。

和紙の可能性を広げて
発信を続けていく

今後について思い描いていることはありますか。

古谷:目前のこととしては、今私が担当している直営店を成功させることです。現在、地元山梨にある河口湖店、10数年構えている吉祥寺店、そして今年の3月にオープンした東京丸の内店とオンラインショップを運営しています。

メーカーである我々が直接ユーザーさんと繋がれる何よりの方法ですので、お客様に喜んでいただけるサービスや接客、売り場作りなど工夫を重ねていきたいです。

SIWAブランドとしては環境問題に対しての活動を今よりも更に強化していき、ユーザーさんと一緒に学んでいけたらと考えています。一つのアクションとしては、染め直しのサービスを始めています。藍や泥などの自然染料で染めるのですが、お客様の使用状態によってさまざまに染め上がるので装い新たな一点ものができあがるんですよ。

SIWAは使うほどに風合いが増すし耐久性もあるから、10年使い続けられる。まさにそれに耐えうる普遍性のある美しいものづくりの魂が根底にある。そこに尽きると思います。

古谷:ありがとうございます。環境問題へのアクションについては、自社だけでやれる事は限られるため、他社との協力を強固にして取り組んでいます。SIWAに使われているペットボトルをリサイクルした原料は、素材メーカーの帝人株式会社さんの技術ですが、リサイクル素材を作り出すために、まずはきちんと分別してゴミを出していただく必要があります。例えば、そういったストーリーから、ゴミの出し方について考えてみるきっかけになれたらとも思います。一時代前までは、技術をクローズドにする風潮があったかもしれないけれど、私は自分たちがやっていることをオープンにして、責任感を持って必要だと感じたことは発信していきたいです。

わたしたちの蔵も、なるべく同業者にも見せるようにしています。結局、場所によって水や空気、そして人も違うから、見せたところで絶対に同じものはできないんです。若い方々や海外の方々が飲む初めての日本酒が全部真澄なんてあり得ない。どこがタッチポイントになるかわからないから、チーム日本酒業界みんなでクオリティを上げていこうと考えています。

SIWA 和紙舗 大直

〒100-6590
東京都千代田区丸の内1丁目5-1
新丸の内ビルディング 4階
営業時間:11:00~21:00(平日・土)11:00~20:00(日・祝)
Tel09016508045

https://siwa.jp/

聞き手:宮坂勝彦(宮坂醸造)
写真:土屋誠
構成:小野民

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