七号サミット2024 - 七号酵母発祥の地で楽しむディープなトークイベント

1946年に真澄諏訪蔵から発見され、現在も多くの酒蔵で使用されている、優良清酒酵母“協会7号”。その七号酵母を愛する蔵元や日本酒や醸造学に精通した方々と七号酵母の魅力や可能性についてディープに語るのが七号サミットです。2024年7月6日に行なった“七号サミット2024”は、ゲスト酒蔵に「南部美人(岩手県)」の久慈雄三さんと、「七賢(山梨県)」の北原亮庫さん。特別講師として、東京農業大学醸造科学科の数岡孝幸教授をお迎えし、さらに、日本酒コーディネーターのおおくぼかずよさんによる、三蔵のお料理ペアリング講座。そのお料理を担当するのは、「あゆみ食堂」の大塩あゆ美さんという、豪華なメンバーで開催した、参加者定員20名の超プレミアム企画でした。当日の模様をレポートにまとめましたのでぜひお読みください。

第1部
会場の様子が分かる写真
第2部

1.出演者プロフィール

宮坂勝彦さんのプロフィール画像

宮坂勝彦 / 真澄

宮坂醸造株式会社/社長室室長

1985年長野県諏訪市生まれ。慶應義塾大学卒業後、三越伊勢丹へ入社。その後、家業である宮坂醸造株式会社へ入社、清酒製造の現場を学んだ後、真澄の米国・英国における販売代理店「World Sake Imports」で出向研修。帰国後は商品・イベント・販売戦略・PR等の企画を担当。

久慈雄三さんのプロフィール画像

久慈雄三 / 南部美人

株式会社南部美人/常務取締役

1974年蔵元の次男として生まれ、1996年東京農業大学醸造学科へ進学。卒業後2000年9月まで福岡県の今泉酒類販売株式会社で勤務。2000年10月より株式会社南部美人入社。営業課長、営業部長を経て現職。2003年より7号酵母を使用した純米酒「雄三スペシャル」を醸している。

蔵元HP:https://www.nanbubijin.co.jp/

北原亮庫さんのプロフィール画像

北原亮庫 / 七賢

山梨銘醸株式会社/醸造責任者

山梨銘醸株式会社 専務取締役 兼 醸造責任者。1984年蔵元の次男として生まれ東京農業大学醸造学科へ進学。卒業後、アメリカ、岡山と様々な経験を積み2008年に家業へ戻る。2014年、醸造責任者に就任し、「白州の水を体現する酒造り」を考えながら酒造りを勤める。SAKE COMPETITION2017で若手杜氏No.1に贈られる若手奨励賞を受賞。今期をもって現職から退き、新たに北海道でスパークリング日本酒に特化した酒蔵【森ノ醸造所】を立ち上げる。

蔵元HP:https://www.sake-shichiken.co.jp/

数岡孝幸さんのプロフィール画像

数岡孝幸 / 東京農業大学

東京農業大学応用生物科学部醸造科学科 教授

関西大学大学院工学研究科で博士の学位を取得後、京都大学化学研究所での講師を経て、東京農業大学で清酒の研究を始める。現在は、自然界からの清酒製造用酵母を題材とした研究や、酒造好適米の育種などの研究を推進している。北海道の4種類目の酒造好適米の育種にも携わっている。

おおくぼかずよさんのプロフィール画像

おおくぼかずよ / 日本酒コーディネーター

東京都出身。老舗寿司店での海外イベントコーディネートを機に日本酒に魅了され、SSI認定 唎酒師・SSI認定 日本酒学講師・J.S.A.認定SAKE DIPLOMAなどの資格を取得。現在はワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」やホテル学校で日本酒教育に精励し、専門誌に寄稿、有名レストランで日本酒ディナーをプロデュースするなど多様な提案を行う。今回の七号サミットでは、イベントMCと第2部のペアリング講座を担当。

2.テイスティングコメント

MC・おおくぼ

テイスティングって、人それぞれ味わいや表現の仕方も違っていて、ソムリエが100人いたら100人のコメントがあると言われています。正解も間違いもないんですが、どこの部分を感じたか、またどういう特徴を拾ったのかというのをお互いに感想を聞いたりするのもとても面白いと思います。今日のように、造り手の方々からこうやって作っているよと直接聞きながら飲むというのも、特別な時間だと思いますよ。

七賢 スパークリング 空ノ彩

七賢・北原

この空ノ彩(いろどり)は、7号酵母で醸したスパークリング酒です。その中でも、貴醸酒という製法を取り入れています。なかなか「貴醸酒×スパークリング」って少ないと思うのですが、ぜひ新しい味わいを楽しんでください。トロピカルなニュアンスと明るいリズム感のある酸が特徴的です。複層的なレイヤー(層)*が、空にかかる虹というところにイメージを持ち、この空ノ彩という名前をつけました。*お酒の味や香りなどの要素をさします。
「糖化」と「発酵」は、「糖化」が先に進みますが、「瓶内二次発酵」を考えると発酵が優先的にならないと良いスパークリングが生まれないので、その加減が一番難しかったですね。

数岡教授

貴醸酒のスパークリングは、他のメーカーでも販売されていますが、貴醸酒の特徴が強くてスパークリングが負けている、あるいは貴醸酒の特徴が負けているなというバランスの悪い印象のお酒がいくつかあります。このお酒は貴醸酒とスパークリングのバランスが非常にとれています。

MC・おおくぼ

とてもクリアで、今日のような暑い日には涼しげで最適だなというのが最初の印象でした。
口に含んだときに甘みと酸味のバランスがとても良くて、“フードフレンドリー”。食事と一緒に楽しみたい綺麗なスパークリングだと感じました。

七賢・北原

スパークリング酒の造り方って、全国的には吟醸酒造りがベースの製法として多いと感じています。でもスパークリングとしては余韻が短かったり、幅が狭いなという捉え方をすることが多かったので、そこに深みや複雑な味わいを生み出したかったんです。
2014年からスパークリング酒の開発を進めておりまして、ちょうど今年で10年目になりました。当時はまだまだ知られていないお酒でしたが、現在では全国で約30数蔵の方々と共に、スパークリング酒の世界観を発信していこうという活動をしています。

真澄 真朱 AKA

真澄・宮坂

真澄では、協会7号酵母ではなく、社内で培養・分離した何種類かの7号酵母、いわば7号酵母ファミリーを使ってそれぞれの特徴をもった5~6種類を、目指す酒質に合わせて使い分けています。今回ご用意する「真朱」には、7号酵母の中でも一番リンゴ酸を多く出すものを使っています。また、山廃で造っているので、このシャープさと山廃由来の味わいや旨味のある酸、そういったレイヤーで積み上げられてできたお酒です。

数岡教授

これを飲んだときに「本当に7号??」と思いました。理由は乳酸にプラスして、リンゴ酸の鋭い酸味があった。いま、宮坂さんからお話のあった、リンゴ酸を多く出す酵母を使っているということを聞いて納得しました。僕の研究の中でも、K-901に対するKT-901のようなK7の酸の強い酵母の研究を考えていたのですが、もう研究はいらないかな。

MC・おおくぼ

7号酵母の特徴よりも、まずは酸の強さが印象的でした。山廃由来のバターなどのまろやかな乳製品を思わせる酸味があり、奥行きがあるなと思いました。それでいて重過ぎない。しっかりと骨格があって柑橘のような酸も感じます。最初に口にした時は、レモンのようなシャープさを受けるんですが、口の中でオレンジのような、まろやかさに変わって甘みが広がります。口の中に飲みこんでいく中で、この短時間での変化がすごく面白いお酒だと思っています。

南部美人 雄三スペシャル

数岡教授

ワイングラスで飲むことで想定されていないお酒で、絶対温めると美味しいですよね。45~47℃、それ以上でもいいかもしれません。一口飲んだ印象で、2℃違いくらい温度を変えてどう味わいが変化していくのかをやってみたいなというのが第一印象です。お酒としては甘味と酸少し熟成感のバランスが非常に良い。それを狙った造りを最初からされているんだろうなと思います。

MC・おおくぼ

私も大ぶりなワイングラスで飲むタイプのお酒ではないなと思いながらも、ワイングラスで飲んでも欠点がでてこない、十分楽しめるお酒であるという懐の深さが第一印象です。旨味もありながらも心地よい苦味が楽しめますね。これは7号酵母あるいはお米(美山錦)の影響なのか、熟成感もありながら、透明感を感じる、多層的な味わいです。

南部美人・久慈

実は7号酵母をあんまり主役として考えていないんですよね。言い方を変えると「最高の脇役」になってくれるんです。これは、純米酒の要素としてはとても大切なことで。あとは麹と水との相性もあり、7号酵母をずっと使っています。
あとこのお酒、さっき熟成感があるって言われていたんですけど、実はバリバリの新酒なんですよ。どうして熟成感を感じられるかというと、このお酒だけ冷蔵庫保管をせず、常温で保存していたから。東北の岩手県でも暑くて、予想よりも早く熟したという結果です。

―――なぜこのお酒だけ常温保存?

昭和のお酒を造っているという思考でいくと、冷蔵庫のない昭和初期などの時代は普通に常温保存していた。純米酒=米から生成されているものって考えると、普通に純米酒を醸せば冷蔵庫はいらないかなって。これは造り始めた2003年からずっと変わっていないです。
ちなみに、実は銘柄を変えようと考えていて、今秋から動こうとしていたんです。理由は「(自分の名前の銘柄だから)俺が死んだらなくなるやん!」と思って。でもこれは僕の独りよがりだったみたいで、変えさせてもらえませんでした(笑)

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3.数岡教授の酵母講座

■酵母の役割

―安定した酒造り―

日本酒においての酵母の第一の役割は、まずはエタノールを作ることです。その他にも風味を形成する、そして結構見落とされがちなのが「安定した酒造り」。
なぜ「安定した酒造りと酵母の関係性」が忘れられがちであるか、ということを歴史を遡ってお話します。明治以前は、全ての蔵が生酛造りでお酒を作っていたため、それぞれの蔵にそれぞれの清酒酵母がいた時代です。その蔵付き酵母が優れた酵母であればいいお酒ができますが、あまり清酒酵母として良くない個性を持っていた場合は酒質が不安定な状態だったわけです。言い方を変えれば蔵ごとの味の幅や個性はあったのかなと。

1906年に日本醸造協会が設立し、酒造りについて様々な研究が行われ、その中で酵母についても研究が進められました。1907年から全国清酒品評会、1911年から全国新酒鑑評会を開催しています。ここで美味しいお酒を造って金賞をとるような安定した酒造りができている酒蔵を研究対象にしてきたんだと思います。
優れた酵母でお酒を造っている蔵から、酵母をとって協会酵母として分離・頒布され、現在では「協会7号酵母(K7)グループ」といわれる協会酵母を使って、日本で造られる日本酒の90%以上が造られています。研究が進んだことにより、「安定した酒造りがスタンダード」になったため、酵母がその役割を果たしていることを見落とされてしまっているのです。

■酵母の歴史と系譜

―酒処出身の協会1号(K-1)~5号酵母(K-5)―

K-1(兵庫県「櫻正宗」)、K-2(京都府「月桂冠」)、K-3(広島県「酔心」)、K-4(広島県内)K-5(広島県「賀茂鶴」)といった、昔も今も酒処として知られている場所から発見されています。現在のK-16やK-18などがなかった時代、K-4・K-5は、K-6やK-7と同じくらいフルーティーなお酒が造られるということで結構評判が良かったらしいんです。しかし、日本醸造協会で、酵母を植え継ぎしている間に性質が変化してしまい、協会酵母として頒布できなくなってしまった。そういう背景があって、現在は日本醸造協会からK-1~K-5までは頒布されていないのです。

―基本となる4つの協会酵母―

七号酵母顕微鏡写真

我々研究者からいうと基本となる非常に重要な酵母は大きく4つ、K-6・K-7・K-9・K-10です。そこから分離・育種改良がされているという系譜です。

K-6(新政)
・泡無し化[K-601]
K-7(真澄)
・泡無し化[K-701]
・耐アル性[K-11]→泡無し化[K-1101]
・[AK1]→K-1501
K-9(熊本酵母)
・泡無し化[K901]→多酸化[KT901]
・[浦霞]→K-12
・[金沢4号]→[K-14]→泡無し化[K-1401]

K-10(小川酵母)
・泡無し化[K-1001]→エステル高生成*[K-1701]
*エステル高生成の酵母・・・薬剤でわざとDNAを傷つけて継代培養することで、元々の酵母とは違う性質のものが生まれる。その工程の中で、エステル高生成(香りの主成分となるカプロン酸エチル等の香気成分を多く作る)の酵母が存在した。

[K-7]× [K-10]=エステル高生成[K-1601]
[K-9]×エステル高生成[K-1601]=[K-1801]→尿素非生成[K-1901]

―今、注目されている酵母「協会11号酵母(K-11)」―

K-7からは、K-701・K-11・K-1101・AK1が生まれています。アルコール耐性をつけてうまれたK-11は、今後日本酒業界の将来のために、研究者の間で注目されている酵母です。なぜかというと酵母のアルコール耐性が向上すると、その酵母で造られたお酒はヒネにくいということが分かっています。そのため清酒酵母がなぜアルコール耐性を得ることができるのかという研究が積極的に行なわれています。

―協会7号(K-7)グループとは―

先ほど「K-7グループ」というお話をした中でいうと、それに該当するのはK-7・K-701・AK1・K-11だけだと思いますよね。でも実はK-6・K-7・K-9・K-10と、その4つの酵母から派生した酵母はすべて「K-7グループ」と呼んでいます。ゲノムの視点で見ると、このグループは非常に似ているのです。兄弟と従兄弟くらいの違いだと思っていただければいいかな。造りだす風味の違いで、使いわけられています。

―――7号酵母と7号酵母以外も使っている蔵元のご意見をぜひ

七賢・北原

七賢では7号酵母、9号酵母と18号酵母を使用しています。以前、私が蔵に戻ってきた頃に、9号単体で純米大吟醸を仕込んでいました。その時のお酒は線が細くて、白州の水と掛け合わせるとギスギスした舌触りという印象がありました。そのため、今は9号単体での使用はしていません。その点、7号酵母については包み込むようなふくよかさを感じていまして、今でも7号単体でのお酒を造っています。

南部美人・久慈

僕は6号酵母・9号酵母もテストで使っているんですけれど、もろみの段階で生成する香りが全然違う。分かりやすくいうと少し重たい感じ。もろみの発酵中期から、よく「バナナみたい」と言われたりするんですが、重い香りになってくるんです。でも7号酵母はそれがないんです。僕はよくミンティって言っているんですけれど、ミントのような香りでずっと発酵が進んでくれる。

―協会7号酵母(K-7)はどこからきたのか―

では、K-7は一体どこからきたのか。2つの説が考えられます。

1つは、時代的には協会6号酵母のほうが早く発見され頒布されてるので、「K-6の祖先が派生してK-7やK-9、K-10になった可能性」という説。ゲノムとして非常に似ているため、有り得るということです。2つ目が、「K-6・K-7・K-9・K-10には共通の祖先がいる」という説。その祖先から各々の蔵で生まれだされたような兄弟のような存在であるということ。これはまだ正解が分かっていません。
正解は分かっていないのですが、私の印象としてお伝えします。「花酵母」という自然界から摂取した高いアルコール発酵能力を示す酵母。その酵母のゲノムを読んでみると、実は協会酵母とそっくりなんです。
つまり、それぞれの酒蔵の蔵付き酵母っていうのは、日本の国土にある自然環境のひとつ。その中で、それぞれの蔵のもろみや蔵の環境によって選抜されてきた、と考える方が自然だと考えています。つまり2つ目の「K-6・K-7・K-9・K-10には共通の祖先」がいて、それが時間の経過とともに日本の自然環境の中に広がった。そして偶然それぞれの酒蔵のもろみに適用した酵母が選抜されるようになり、より清酒造りにむいた酵母が日本醸造協会によって選ばれていった。そしていま、協会酵母として頒布されているんだろうと考えています。

■海外の品評会から日本酒をみる

―コンテストの審査員として―

「IWC」や「ワイングラスで美味しい日本酒」などのお酒のコンテストの審査員をさせてもらっています。出品酒で使われている酵母は、K-1801やK-9をベースにしたものが多いなという印象です。K-7で造られている出品酒がゼロではないと思っています。審査基準はそれぞれの大会で「こういうポイントを基準に審査してください」ということが最初に説明されます。もちろんそれは秘密ですよ!でも共通して言われるのは「バランス」ですね。

―IWCから見る日本酒の可能性―

 IWCは、ワインだと約2万種類、日本酒だと約1500種類が集まる世界的な品評会です。審査員は基本的に海外の方です。日本の品評会だと椅子に座って、一人ずつ黙々と審査をしますが、IWCの審査は4~5人のグループで1種類1種類のお酒をディスカッションして評価をします。それを他グループも繰り返し、何度も審査をして金賞やトロフィーを決めていきます。
IWCで高い評価を得たお酒は、日本の大使館に紹介されます。世界各国の大使館で開催されるパーティーで使うお酒のリストに入ることができるのです。つまり、IWCでの受賞は、海外輸出にも大きく繋がっていきます。現状の日本酒の市場はなかなか苦境を強いられている中で、今後、海外展開というのは必須になってくると考えるので、IWCはそういう意味でも意義がある品評会です。

―日本酒の未来―

 私個人の見解ですが、これからの日本酒は食事と一緒に楽しむ「食中酒」として求められる酒質がより重要になってくると思います。K-1801などを使った香り高くて、お酒単体で楽しめるものも数多くありますが、お酒が飲まれるシチュエーションには必ず食べ物がある。そのため、食べ物とあわせた時に、「味の邪魔をしない」、あるいは「料理と合う」酒質というのが今後注目を浴びていくんだろうなと。そんな時に、K-7っていうのはより重要な役割を果たすと考えています。

―――IWCでもチャンピオンを獲得している南部美人さん、いかがですか?

南部美人・久慈

全国の鑑評会など色々と賞をいただいていますが、IWCが一番大きい反応がありました。7号酵母に対していえば、可能性はすごくあると思っています。色んな国の方々に飲んでもらいましたが、国籍・人種関係なく「あったかい酒」を世界が求めていますよ!

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4.七賢による北海道での新たなる挑戦

―――七賢さんは北海道に新たな蔵を作ると伺いました。

七賢・北原

北海道の蘭越町という小さな町で新たな酒蔵をつくろうということで、来年の冬から稼動予定です。
昨今の日本酒業界では、精米歩合が高いことが良いとされたり、原料米の品種や精米歩合で価格が決定されている風潮があります。また、技術の高度化や情報化に伴って全国各地で同じような酒質が造られるようになってきました。そういった流れを見て「このままでいいのだろうか」という疑問が浮かび上がってきました。
自分ならではの哲学でお酒を造ることで、世界のワインを含めたアルコールのマーケットと勝負ができるようにしていきたい。ワインが造られない土壌で、人々が考えて工夫をして生まれたのがシャンパンです。それであれば、スパークリング酒が新しいカテゴリーのお酒として飲まれてもいいのではないかと考え、挑戦していこうと思っています。

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第2部

第2部はおおくぼかずよさんによるペアリング講座を中心にお楽しみいただきました。
「飲食は五感で味わい楽しむもの」、「五つの基本の味について」など食べ物・飲み物を味わうことに対しての知識をお話していただき、フードペアリングや温度帯で美味しさが引き立つ「酸」についてなど、日本酒と食事をより楽しむポイントなどをお話していただきました。

会場の様子が分かる写真

1.お酒の温度と香りの話

おおくぼ

 一般的に温かい飲み物は血流が良くなります。アルコールの吸収されやすく脳で「酔い」を感じるスピードが冷酒よりも速くなると言われています。冷酒だと温度が低いことで「酔い」を脳が感じにくいため、皆様も冷酒だといつもよりも飲みすぎてしまったなというご経験があるのではないでしょうか。燗酒だと酔いやすく感じると思うのですが、それは脳が感知するスピードの違いということです。

―お酒の香りを音楽で例えるー

ワインスクールをやっていく中で「香りが複雑・香りが強い」っていう表現に関して、理解が難しいという質問が頻繁にでてきます。そこで私は音楽に例えて説明をしています。
弦楽四重奏は、バイオリン・ヴィオラ・チェロで構成されていて、弦楽器で曲を奏でているので「香りが強い」。オーケストラは、弦楽器・打楽器・金管楽器など様々な楽器で演奏をしているため「香りが複雑」と表現しています。ここで言う7号酵母は香りが複雑なお酒も作りつつ、味わいが複層的なお料理にも寄り添ってくれる印象があります。香りが強いお酒だと料理とのバランスが悪くなってしまったり、(料理やお酒の)個性を消してしまったりすることがあります。そういった時に、オーケストラのような要素をもつ7号酵母は食中酒として優れた酵母だと思っています。

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2.三蔵のお酒と料理のペアリング

■お料理担当:大塩あゆみ(あゆみ食堂)

出張料理「あゆみ食堂」として都内で活動後、2019年秋に長野県諏訪市に実店舗をオープン。現在は店舗での料理を中心に、イベントや展示会でケータリングを行い、オーダーメイドレシピも数多く手がけている。著書に「あゆみ食堂のお弁当」「超元気になれる!あゆみ食堂のワンプレート」がある。

―雄三スペシャル×稚鮎の春巻き―

雄三スペシャルは第一部でも申し上げたように心地よい苦味があります。苦味というとネガティブな印象に捉えられるんですが、甘いだけだとぼんやりしてしまうんです。味が何層にも重なっているので、苦味が1つの味に慣れてしまうことをストップさせて、立体感を作る。お酒に柱ができるような印象を持ちました。それにプラスして透明感のようなグリーンのトーンを感じたので、稚鮎の春巻きをあわせました。苦味を楽しむって和食だけなんですよね。その稚鮎の春巻きに同じように苦味をもつクレソンをあわせ、上からシナモンをかけています。この料理の清涼感とお酒の心地よい苦味の清涼感、メイラード反応をおこしている熟成感とダブルで楽しんでいただけると思っています。

―真澄 真朱 AKA ×地鶏の骨付きもも肉 アニス風味―

鶏のもも肉のオレンジ煮込みでアニスというスパイスを使っています。アニスは甘味を強く感じさせるスパイスなので、砂糖をそこまで入れなくてもアニスを入れることで甘味をより強く感じられます。お菓子作りでもよく使われていますね。オレンジの風味を感じつつ、温めることでこのお酒の複雑な味わいを一緒に楽しんでもらいたいなと。隣にティムールペッパーというネパールの山椒を添えています。柑橘を思わせる山椒で、日本や中国の山椒とはまた違った味です。すっと鼻に抜けていく感覚が面白いですよね。
またこのお料理は真朱の余韻に合わせました。余韻の長さでお料理がぶつっと切れてしまうとバランスが悪いんです。余韻にずっと伴走するようなイメージでこの山椒をあわせています。

―空ノ彩×蒸しとうもろこしとタプナードソース フムスを添えて―

このお酒には柔らかい感じと透明感、そしてちょっとベジタブルなフレッシュさを感じました。それでいて貴醸酒の厚みもありましたので、茹でずに蒸したトウモロコシを添えています。茹でると水分量が多くなって、このお酒の厚みとのバランスがとれなくなってしまうので、トロッとした食感を出してバランスがとれるように仕上げました。
次に黒オリーブのタプナードソース。オリーブと日本酒ってとても良く合うんです。それを引き受けてくれるのが大豆で作ったフムス。火入れのお酒なので、軽く表面を焼いております。

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3.日本酒は、温度で楽しめるお酒

今回はスパークリング酒を最後にしましたが、ワインでいう「〆シャン」(締めにシャンパーニュを飲む)の演出にしてみました。最初はお燗で、結びは〆シャンという流れにしてみたのですが、このように色々な「温度」で楽しめるのが日本酒だと思います。よくお寿司屋さんで何のお酒を選べばよいか分からないという時、温度であわせてみるのも楽しいです。例えば、淡白なネタには冷たいお酒で、脂が多い寿司になってきたら口の中でとろけさせるようにお酒の温度もあげていく。脂肪分が多いものはお酒の温度も上げていくと、同調しあうのでとても良いペアリングが楽しめます。実はワインではこれがなかなか難しいんです。

4.お酒のある豊かな人生

七賢・北原

私も普段お酒を飲んで食べるのが好きで、毎晩晩酌を楽しみにしているんです。一番大事なことは難しいことは考えずに料理やお酒が美味しい、その場が楽しいって思えることだと考えております。でも、こうやってプロの方に設計された食べ物をいただいてみると、新しい発見があり、とても勉強になりました。作り手としてはここまでの設計に対してピンポイントでアプローチするってなかなかできないので、プロの方が間に入っていただくことでこういうペアリングが楽しめると思っています。

おおくぼ

私が日本酒のペアリングを始めたきっかけというのが、海外のイベントでお寿司のブースを出す際に担当になった時のことです。飲み物は何を提供しますか、と聞かれたときに「肉には赤ワイン、魚には白ワイン」だから寿司は魚なので白ワインを提供するブースを隣に設置することにしました。ところが、現地にいってお寿司と白ワインを合わせたら美味しくなかったんです。お寿司も美味しい、白ワインも美味しいのに、合わせると美味しくないという不思議な経験でした。その際に、数軒先に日本酒のブースがあったので、そこの日本酒とお寿司をあわせてみたら印象が全く違いました。お酒単体で飲むときと、食事と合わせて飲むってこんなに違うんだという気付きから興味を持ちました。
ヤナセ(外国車のディーラー)さんが「車のある豊かな人生」とコーポレートスポーガンを掲げていらっしゃいます。それでいうと、私がやっているペアリングの提案は、お酒は作らないけれど「お酒のある豊かな人生」を提供できる仕事であると考えています。お酒や食事を通して豊かな友人関係や家庭を築いていけるようなイメージを持っています。

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5.ペアリングの感想

―――今日のペアリングのご感想はいかがですか?

真澄・宮坂

日本酒というと寿司や刺身というイメージをもたれることが多いですが、海無し県に住んでいると、魚を食べる機会がそこまで多くないのが現状です。特別な時や、海の近くに行ったときなどに食べるもので「日常」とは少し違っているかもしれません。そのため、私達が造るお酒というのは、野菜やキノコ、山菜やお肉などの食事に自然と合うような気がしています。今日のお料理をいただくと、三蔵のお酒をちゃんと見つめてくださっているなと感じます。

数岡教授

ペアリングは研究対象ではないので、コメントが難しいですね。ただペアリングで合う・合わないがあるということは実感しています。それを現状では数値化できないので、それぞれの人の考え方をベースにした分野なのだろうと思います。今日のお料理でいうと、お酒と食べ物を媒介してくれる存在(パンや春巻きの衣など)があることで、とても調和しやすいなっていうのが感じられました。

6.最後に

―――イベントも結びに近づいてきました。最後に一言いかがですか?

南部美人・久慈

「最高の脇役」である7号酵母にあわせて、20年間麹を作って純米酒を醸してきました。7号酵母に出会っていなければ、雄三スペシャルは生まれていないです。最初に雄三スペシャルを作った頃は、兄である社長に「こんな酒は南部美人じゃないから売るな」とまで言われました。しかし、今では南部美人のカテゴリーの中でぽっかり開いていた穴を埋めてくれた存在だと思っています。これからは世界にむけて7号酵母で醸したお酒、そして燗酒を広めていきたいです。

七賢・北原

2014年に醸造責任者になった際、ほぼ全てのお酒の醸造のレシピを入れ替えようと大きな改革を行いました。その中で父である会長から「このお酒だけは変えないでほしい」といわれたお酒がありました。それは7号酵母のお酒だったんです。父はそのお酒を毎晩お燗にして飲んでいました。
そんなことを思い出しながら、7号酵母の懐の深さ、世代を越えて愛される、温度域の柔軟性が魅力であるということを、今日このイベントで先生達のお話を聞きながら考えていました。20年以上前の大学の講義を思い出しましたね。

真澄・宮坂

私は日本酒の業界にいるというのは非常に幸せなことだと思っています。お酒って銘柄が沢山あるから一晩で色んな銘柄に出会えますよね。まず七賢飲んで、真澄を味わって、南部美人の燗酒楽しんで…って飲みながら、このお酒はどうだ、あの銘柄がなんだってみんなが、しつこいくらいに愛をもって意見を交し合う。和やかで楽しい空間を作っている仕事って誇れることだなと。そういったことを皆さんと一緒に楽しむということが「日本酒ブーム」だと思っています。7号酵母ひとつとってもこんなに違うお酒ができるということ
これからも7号酵母の可能性と魅力に自分達もしっかりと向き合っていきたいですし、ぜひ皆さんもしつこいくらいの愛をもってお酒のことを語っていってください。

―参加者からの感想―

Aさん

日本酒は海外の輸出が増えているということで、今日のこういうペアリングを海外の方に提供することを考えていました。その海外の方が普段食べているものと合わせて美味しいお酒を選んでみるといいんじゃないかなと。例えばフランスの方がいらしたら、フランスの田舎料理と日本酒のペアリングを提供してみて、こういう料理でも日本酒が合うってことを気付いていただけると波及効果が期待できそうですね。

Bさん

日本酒の勉強を色々していて、お酒単体でも美味しいなって思っているレベルです。でも今日の話を聞いて、お料理をいただいたことで、ペアリングによってお酒もお料理もどちらのポテンシャルもぐっと引き出すということを体感できました。興味があるけど日本酒はそこまで詳しくない人や、これからお酒を楽しみたいと思っている人達に、ペアリングを広めていくことで日本酒業界はもっと盛り上がるんじゃないかなと、ワクワクしながら(勉強を)頑張りたいなと思いました。

―結びに

2025年も七号酵母記念イベントの開催を予定しています。皆様のご参加を心よりお待ちしております。最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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